エルメス・オレンジの伝説
「オレンジ色」って、どのようなイメージでしょうか?
かつて、オレンジはビタミンカラーのような「元気さ」や、あるいは「親しみやすさ」を象徴するカジュアルな色とされていました。
しかし、この色のイメージを世界で最も「高貴で洗練された色」へと塗り替えたブランドがあります。それが、フランスの至宝、エルメスです。
実は、あの象徴的なオレンジ色の箱には、戦時中の「あるハプニング」から生まれた物語があったのです。
始まりは「代用品」だった?
1920年代、エルメスの包装箱は、現在とは全く異なる「ベージュ色」で、縁取りに金色のラインが入った、非常にクラシックで落ち着いたデザインでした。
転機が訪れたのは、第二次世界大戦下のフランス。
物資が極端に不足し、それまで使っていたベージュの紙が手に入らなくなってしまったのです。
業者に問い合わせても、在庫として唯一残っていたのは、当時あまり人気がなかった「鮮やかなオレンジ色」の紙だけでした。
「背に腹は変えられない」と、やむを得ずそのオレンジ色の紙を包装に使ったのが、現在のエルメス・オレンジの始まりだと言われています。

「フー(Feu)」という名の情熱
このエルメスを象徴するオレンジ色には、フランス語で「フー(Feu)」という呼び名があります。
日本語に訳すと、「火」や「炎」を意味します。
「エルメスのオレンジは、単なる果実のオレンジではなく、
内側から燃え上がるような生命力、そして職人の情熱を象徴する「火」の色。
カラーコードでいうとヴァーミリオン(#F26649)に近い、非常に赤みの強い鮮やかな色です。
戦後の混乱期を経て、この鮮やかなオレンジは、人々に希望とラグジュアリーな喜びを与える色として定着していきます。
現在では「オレンジ・エルメス」として商標登録も申請し、ブランドのアイデンティティそのものとなりました。
庶民の色を「憧れの色」に変えた魔法
オレンジは、一歩間違えると派手すぎて安っぽく見えてしまう難しい色です。
しかし、エルメスはそこに「シボ(表面の細かな凹凸)」加工を施した上質な紙質と、茶色のリボン、そして馬車のロゴを組み合わせることで、圧倒的な「高級感」を与えました。
「手に入らないから使った色」が、今では「世界中の人々が手に入れることを夢見る色」になった。
この劇的な逆転劇は、デザインの持つ力と、ブランドが紡いできた真摯なモノづくりの歴史が成し遂げた魔法と言えるでしょう。
制約が美しさを生む
エルメスの歴史を振り返ると、自由が制限された戦時中という苦境の中でさえ、美しいものを生み出そうとする意志が、輝かしい「フー(火)」を灯したことがわかります。
あなたの身の回りにあるオレンジ色も、もしかしたら何かの「きっかけ」で新しい価値を持つかもしれません。
色の裏側に隠された物語を知ることで、いつもの風景が少しだけ特別なものに見えてきませんか?
