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ケチから生まれた失敗作~シアン~

2026/04/08

ケチから生まれた世紀の失敗作だった!?

シアン



プリンターで使う色としてお馴染みの「シアン」。

実はこの色、ある職人の「ケチ」から生まれた『世紀の失敗作』だったんです。

今回は、現代の印刷に欠かせない「シアン」の話です。



始まりは「赤いインク」



物語の舞台は1704年頃のドイツ・ベルリン。

主人公は、ディース・バッハという塗料業者のひとり。

彼は、以前、このブログでもご紹介した『コチニール』という、真っ赤な顔料を作ろうとしていました。

しかも、サボテンにつく虫から取れるこの貴重な赤は、非常に高価だったため、より安く、効率的に作ろうと試行錯誤していたのです。

ところが、ここで歴史を変える「事件」が起きます。



材料をケチった代償



ディースバッハは、コストを抑えるために材料を安く手に入れたいと考えました。

そこで、その材料の一つである「カリ(炭酸カリウム)」を、正規の店ではなく、錬金術師ディッペルから譲り受けることにしたのです。

これが、思わぬ結果をもたらします。

この「カリ」は、牛の血液などの不純物が混ざったものだったのです。

出来上がったのは期待していた「情熱的な赤」ではなく、見たこともないほど、深く、鮮やかな青!!

これが、現代の「シアン」のルーツが誕生した瞬間でした。

世界初の人工合成顔料「プルシアンブルー(ベルリン藍)」は、ケチ精神が生んだ実験の失敗の結果なのです。




「シアン」という名前の奇妙な関係



「シアン」という名前の語源は、ギリシャ語の「暗い青」(cyanoa)」から派生した言葉です。

実は、この名前には少し怖い側面もあります。

ミステリー小説でお馴染みの猛毒、青酸カリなどは「シアン化合物」なんです。

この毒が最初に「プルシアンブルー」から抽出されたため、同じ「シアン」の名を冠することになりました。

現代のプリンターインクとしてのシアン自体に猛毒はありませんが、名前の裏には「青い顔料から見つかった毒」という、化学の少しダークな歴史が隠されているんです。




海を渡り、葛飾北斎を魅了した「青」



このベルリン生まれの失敗作は、やがて海を越えて江戸時代の日本にやってきます。

当時の人々はこれを「ベルリンの藍」を略して「ベロ藍」と呼びました。

それまでは、藍色といえば、染料でおなじみの『藍』。

これに比べ、安価で発色が鮮やかなベロ藍は、のびやかに描けることもあって、絵師たちに大好評となりました。

もちろん、あの葛飾北斎もベロ藍に魅了された絵師の一人です。


『富嶽三十六景』の『神奈川沖浪裏』


力強くうねる波、澄み渡る空。

あのドラマチックな青は、この「ベロ藍」なしには表現できませんでした。

もし、ドイツの職人が材料をケチっていなければ、北斎の代表作はもっと地味な色合いだったかもしれない……。

そう考えると、歴史の偶然に感謝したくなりますね。

現在、私たちがプリンターで使うシアンは、さらに進化を遂げた「フタロシアニン」という顔料が主役です。

「安定して大量に作れる青」の発見が、後の色彩学において、色の三原色としての「シアン」を定義する土台となったのでした。


カラースクールT.A.A
フジタ でした