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「アイビーグリーン」が象徴する伝統と熱狂

2026/07/17

壁を伝う不変の緑が象徴する伝統と熱狂

アイビーグリーン(Ivy Green)


アイビーグリーンは、一見すると落ち着いたダークグリーンです。

ところが、この色名が誕生した背景や、日本と西洋の「蔦(ツタ)」に対する眼差しの違い、そして20世紀の若者たちを熱狂させたカルチャーとの結びつきを紐解くと、この色が持つ新たな魅力が見えてきます。



20世紀に生まれた新しいスタンダード



あなたにとっての「アイビーグリーン」は、どんな色のイメージですか?
多くの人が、クラシックな英国調のジャケットや、深い森のような、少し黄味を含んだ濃い緑色を想像されることと思います。

アイビー(Ivy)とは、イギリスをはじめとするヨーロッパの自然界に自生する、あの瑞々しくも深みのある葉が、色名の由来です。

実はこの色は、歴史が古いように見えて、色名として正式に登録されたのは1900年代初め頃。

色彩の歴史の中では比較的モダンな部類に入ります。

日本のJIS規格においても「暗い黄緑」としてしっかりと定義されていて、英語圏でもそのまま “Ivy Green” として通用する、まさに全世界共通のスタンダードな色名です。

  


似て非なる「西洋のアイビー」と「日本の蔦(つた)」・・・不変か、うつろいか



実は、西洋の「アイビー」と、私たちが日本でよく目にする「蔦(つた)」は、実はまったく異なる植物なんです。

  • 日本の蔦(ナツヅタ)
  ブドウ科ツタ属の植物。夏には鮮やかな緑で壁を覆いますが、秋になると見事な赤や黄色へと姿を変え、冬にはすべての葉を落とします。

  • 西洋のアイビー(イングリッシュ・アイビー)
  ウコギ科キヅタ属の植物。こちらは「常緑性」であり、厳しい冬の寒さの中でも枯れることなく、一年中その深い緑色を保ち続けます。  

この植物学的な違いは、そのまま両者の美意識の差へと繋がります。

古来、日本人は秋のモミジのように、季節とともにドラマチックに変化する蔦の「うつろいの美」を愛でてきました。

一方の西洋では、冬でも青々とした葉を茂らせるアイビーに対して、「永遠の生命」や「不変の忠誠」、そして「歴史の積み重ね」というポジティブな象徴性を見出したのです。

ちなみに、この西洋の常緑のアイビーが日本にやってきたのは、明治時代末期のこと。

文明開化の波とともに日本へ導入されたアイビーは、それまでの「落葉する日本の蔦」とは異なる、一年中変わらないモダンな緑の風景を日本の街並みにもたらしました。



レンガの壁と格式の象徴「アイビーリーグ」の誕生



アイビーグリーンという色が、世界中で「育ちが良く、知的な色」として認知されるようになった決定的なきっかけは、アメリカで生まれました。

それが、名門私立大学の総称である「アイビーリーグ(Ivy League)」です。 

ハーバード、イェール、プリンストン、コロンビアなど、アメリカ東海岸に位置する8つの超名門大学。

これらのキャンパスを訪れると、長い歴史を感じさせる赤レンガ造りの伝統的な校舎が建ち並んでいます。

そして、その重厚な壁面をびっしりと覆っているのが、ほかでもない「アイビー(蔦)」の緑なのです。 

1930年代、ある高名なスポーツ記者が、これらの大学のフットボール競技連盟を指して「アイビー(蔦)の絡まる校舎を持つ大学たちのリーグ」と呼んだことが、その名前の由来とされています。

アメリカのエリートたちの学び舎において、長い年月をかけてレンガを伝い、静かに成長してきたアイビーの緑は、まさに「最高峰の知性」と「伝統の格式」を象徴するステータスカラーとなったのです。




キャンパスから日本の街角へ



このアイビーリーグの学生たちが好んだライフスタイルや着こなしは、やがて「アイビーファッション(アイビールック)」という一大ジャンルへと昇華していきます。

彼らは、格式高い名門校に通いながらも、決して気取らないカジュアルなスタイルを好みました。

ネイビーのブレザーにボタンダウンのシャツ、チノパンにコインローファーを合わせるスタイルです。

そのコーディネートの中で、ネクタイやチーフ、あるいはコーデュロイパンツなどの差し色として重宝されたのが、キャンパスの壁の色そのものである「アイビーグリーン」でした。

そして1960年代、このスタイルは太平洋を渡り、日本に上陸します。

日本のファッション界の伝説である石津謙介氏のヴァンヂャケット(VAN JACKET)が、アメリカの学生たちのこの洗練されたライフスタイルを日本に紹介したのです。

当時、日本の若者たちの間でこれは単なるファッションを超えた「革命」でした。

銀座のみゆき通りには、VANの紙袋を抱え、アイビールックに身を包んだ「みゆき族」と呼ばれる若者たちが溢れかえりました。

西洋の歴史あるキャンパスで「伝統への敬意」を表していたアイビーグリーンは、昭和の日本において「最先端の若者文化と反逆のシンボル」へと劇的な変身を遂げたのです。

世界共通の色名でありながら、西洋の「不変の伝統」と、日本の「若き熱狂」というふたつの異なる物語を駆け抜けてきたアイビーグリーン。  

現代のファッションにおいて、この色はアースカラーやカーキのようなカジュアルさを持ちながらも、どこか育ちの良さを感じさせる絶妙なポジションを維持しています。

単なるトレンドカラーのように消費されて消えることがないのは、その根底に、アメリカのレンガの壁や、イギリスの深い森が持つ「揺るぎない歴史」が流れているからかもしれませんね。

アイビーに和名はあるの?

 
明治末期、この植物が日本に来た時には、まだ「アイビー」とは呼ばれていませんでした。

その頃、実は「お堅い名前」や「お洒落な漢字」で紹介されていたんです。

  • 西洋木蔦(セイヨウキヅタ)
日本に昔から自生していた「キヅタ(木蔦)」と区別するために、西洋から来たツタという意味で付けられた正式な和名です。
当時の植物図鑑にはこの名で登録されました。

  • 常春藤(じょうしゅんとう)
 中国由来の漢字表記(漢名)です。
明治・大正期の園芸書や文学においては、「常に春のように青々としている藤(つる植物)」という意味を持つ、非常にハイカラで詩的な表現として使われることもありました。 
当時は、洋館や赤レンガの建物を建てる際に、わざわざ海外から取り寄せて壁に這わせるような「知る人ぞ知る、お洒落な外来植物」という扱いでした。


カラースクールT.A.A
藤田 でした