フューシャピンク
名前が変わったのは何故?

この鮮やかな青紫色のピンク、「マゼンタ」と呼びますか?「フューシャ」でしょうか?
実はこの2つの色名、色の世界では「ほぼ同じ」とされることもあります。
だけど、その成り立ちを紐解くと、人間の思惑によって運命に翻弄された、隠れた物語があるんです。
始まりは、一輪の「花」から
物語の舞台は17世紀のカリブ海。
フランスの植物学者が、下向きに咲く愛らしい花を発見しました。
彼は尊敬するドイツの植物学者レオンハルト・フックスにちなんで、その花を「フューシャ」と名付けます。
やがて19世紀、化学の力が進化し、石炭タールから鮮やかな赤紫色の合成染料が発明されました。
その色がフューシャの花にそっくりだったことから、染料は「フクシン(フューシャの色)」と命名されます。
これが、私たちが知る「フューシャピンク」の誕生の瞬間でした。
戦争が変えた「色の名前」
しかし、そのわずか1年後、歴史を揺るがす出来事が起こります。
1859年、フランス・サルデーニャ連合軍がオーストリア軍に劇的な勝利を収めたのです。
このニュースに世界中が沸き立つ中、染料メーカーが、ある大胆なマーケティング戦略を打ち出します。
最新の流行色だった「フクシン」の名前を、戦勝記念の地名にあやかって「マゼンタ」へと塗り替えてしまったのです。
すでに、人気の色であった「フューシャ(フクシン)」が、ある日突然、マゼンタという新しい名前に変えられた、という事実がその後の混乱の元になります。

現代における「2つの色」の結論
では、現代においてマゼンタとフューシャピンクは同じ色なのでしょうか?
結論から言えば、私たちはこの2つを「別の色」として扱ってよいのだと、私は思います。
なぜなら、そこには明確な「役割」の違いがあるからです。
マゼンタ(#FF00FFなど): 印刷やデジタルの世界を支える「基準」の色。正確で無機質な、科学の目線で見た色です。
フューシャピンク(#CC1669など): 庭園に咲く花のような、生命力と華やかさを宿した色。ファッションや感性の世界で愛される、情緒的な色です。
現在は、この2つの色が混同されて使われています。
マゼンタという色名がついている商品に、フューシャピンクの色が使われていたり、全く同じものといった記述がみられたり‥‥‥。
けれど、数千年の時を経て愛されてきた「花の色」としてのフューシャと、歴史の荒波の中で名付けられた「勝利の色」としてのマゼンタ。
2つの名前を持つこの色は、今もなお、カラーコードという数字の枠を飛び越えて、私たちの目を楽しませてくれています。
どちらも必要な色として、名前を呼び変えて扱うことが、色にとっての幸せなのではないかと思うのです。
